「アキバ戦争」感想

十津川警部 アキバ戦争 (トクマ・ノベルズ)

十津川警部 アキバ戦争 (トクマ・ノベルズ)

もうひと展開がほしかった。


まさか、後ろに50ページ以上、西村京太郎の「年譜」と「全著作リスト」が掲載されてるとは思いもしませんでしたよ。残りのページ数から考えて、「あと少しでクライマックスがくる」とか思っていた矢先、話が終わっちまいました。なんというフェイント。


西村京太郎の推理小説は、中学生時代にトラベルミステリーを読みあさって以来でした。十津川警部がこの作品でも登場して、ちょっとした懐かしさを覚えました。


以下、ネタバレ注意


ただ、今回の十津川警部は犯人にも、オタク三銃士にも、終始押され気味でした。推理小説という性質上、「事件を未然に防ぐ」というのはご法度なわけで、対応が後手後手にまわるのも仕方のないことなわけですが、まさか最後までこれとは。


個人的には、もうちょっと十津川警部たちが活躍してもらって、明日香や犯人の真意を詳しく知りたかったかな。終わり方がきれいではあるんだけど、すっきりしないものでした。


ただ、事件自体はともかく、アキバ描写は見事と言わざるを得ないですね。現在の秋葉原の様子をうまく描いていると思います。おでん缶とか、メイドカフェとか、古くからあるお店がお客を奪われてることとか。さすが、裏表紙に書いてあるような取材をしただけはありますよ。


また、オタク三銃士の描写も、まさにオタクそのまんま。さすがに、アニメオタクやエロゲオタクは登場してきませんが、フィギュアにガンマニアにエンジニア。オタクではない十津川警部たちがもった印象や、オタク三銃士の思考回路はなかなかリアルなものでした。


普通の人がオタクを描こうとすると、どうしてもオタクそのものではなくて、オタクを「外から見た」描写が多くなってしまうんですよね。でも、この作品はオタクを内面からも描写してくれています。


十津川警部たちが考えるオタク三銃士と、オタク三銃士同士の話し合い。十津川警部たちには、「何があってもあすかちゃんを助けよう」となるオタク三銃士の思考をなかなか見抜くことができず、そのすれ違いで物語が進んでいきます。そこらへんはお見事。


オタクの僕が読んでいても、嫌悪感がでてくる描写がありませんでした。むしろ、想定外の描写が多すぎて何回も吹き出してしまったくらい。いやー、西村京太郎先生は分かっていらっしゃる。


これでミステリー自体も盛り上がれば最高だったんですが。ともかく、西村京太郎のアキバ描写を読みたい人はどうぞ。昔の西村京太郎作品を読んだことのある人にとっては、意外性抜群な作品となっているかも。