「警官の血」感想
- 作者: 佐々木譲
- 出版社/メーカー: 新潮社
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警官の血がドロドロ流れる連続殺人事件・・・ではなかった。
2008年版「このミステリーがすごい!」で第1位となった作品。「警官の血」というから、警官が巻き込まれる重大事件、例えば、交番連続襲撃事件、みたいなものを想像してたんだけど、そういう意味での「血」ではなかったんですね。ここでいう「血」は「血筋」という意味になるのかな。親子三代にわたる警官一家の物語。
物語は戦後から始まります。まるで見てきたかのような、実在する人をそのまま記録したかのような描写には心が踊らされました。また、拳銃の保管方法が変わっていったり、駐在所の数が減っていったりと、代が変わるごとに移り変わっていく内部事情や、その時代の重大事件、社会情勢といったものは読んでいて興味深いものばかりでした。
特に、高校で政治経済を勉強したものにとっては、リアルな戦後史を見ているようで本当におもしろかったですよ。実際のところはどうなのかは分からないけど、教科書もテストも庶民の生活までは触れていませんしね。派手さや、アクションはないけれど、とても丁寧に描かれているのでなかなか飽きさせてくれません。
普通だと、事件がたくさん起きても、それらがどこかで「物理的に」つながってることが多いんだけど、この作品は「精神的に」つながってる感じ。「一人の警官ができるまで」の歴史小説といったほうが合ってるのかもしれません。そういった意味では、普通のミステリー(推理小説)とはだいぶ趣が異なっていますね。実際に、歴史・時代小説を書かれている作家さんみたいですし。
そして、最後はやっぱり驚きの結末。ミステリーはこれがあるから大好きなんです。話がなかなか収束する方向に向かわず、最初の事件が解決する感じもせず、「僕はミステリーを読んでるんだよね?」と確認すらしたくなってくる展開でしたが、こんなまとめ方があったとは。その血はすべて子に受け継がれて。「警官の血」というタイトルに相応しい作品でした。